今回は、敵対的な企業買収の防衛手段の種類についてご説明いたします。
敵対的な企業買収への対抗について
今や企業の成長に、企業買収は欠かせない手段の一つです。
ゼロから事業を始めるよりもずっと早くその業界に参入できます。お金で時間を買う感覚です。
しかしながら、買収される側にとっては、それが望ましくない場合もあります。望まれない買収を防ぐための手段にはどのようなものがあるのかをご紹介します。
ホワイトナイト(White Knights)
「ホワイトナイト」は「白馬の騎士」のことです。
敵対的な買収者が現れたときに、買収のターゲットにされた企業が友好的な買収者を探して、そこに買い取ってもらう手段です。
結局はその企業は買収されてしまうことに変わりはないのですが、当初の敵対的な買収者よりもましになります。
シャークリペラント(Shark repellents)
「シャークリペラント」とは、「サメよけ」のことです。
複数の規定を定めたり、複数の対策を講じることで、敵対的な買収をより困難に、より高価なものにする手段です。
これらの複数の規定や対策には、これから紹介する対策が組み合わせられるのが一般的です。
ゴールデンパラシュート(Golden Parachute)
ゴールデンパラシュートとは、買収される企業の経営者や役員の退職に関する条項をあらかじめ定める防衛手段です。
その条項では次のようなことが定められます。
- 当該企業が買収され、経営者や役員が退職するときに発動する
- 退職にあたり、経営者や役員は、割増された退職金および年金を受け取る権利が得られる
買収を試みる企業(買う側)にとって、買収対象の企業にこの条項があれば、買収後、買収企業の経営者や役員を退職させるために多額のお金を支払わなければならないことになります。
よって、ゴールデンパラシュートには、買収をあきらめさせるという抑止効果があります。
スーパーマジョリティ条項(Super majority)
スーパーマジョリティ条項とは、企業買収にかかる決議については、大多数(super majority)の賛成が必要であると定款であらかじめ定めておく防衛手段のことです。
例えば、通常の決議が議決権の50%の賛成が必要であるのに対して、企業買収にかかる決議については、3分の2(約67%)以上の賛成が必要であると定めるものです。
この集団の効果は以下のとおりです。
- 買収をためらわせる抑止効果
- 買収手続きを遅らせる効果
- 少数派に影響力を与える効果(少数派の動向が鍵になるため)
スタッガード・ボード(Staggered Board)
スタッガード・ボードとは、複数いる取締役のうち、その一部を一年ごとに選び直すようにする防衛手段です。
このやり方であれば、取締役の改選時期が一度に来ませんので、一回の株主総会ですべての取締役を変更させることはできなくなります。
買収側にとっては、このルールがあることで、買収に必要な取締役の議決権数を確保するのが困難になります。また、買収にとってじゃまな定款を無効にさせることも難しくなります。
ポイズンピル(Poison pills)
「ポイズンピル」とは「毒薬」のことです。したがって、「ポイズンピル」は毒薬条項などとも呼ばれます。
敵対的買収を抑止するために以下のようにあらかじめ定められます。
- 買収者が、議決権のある株式を特定の割合(例、全体の10%以上)で取得したときに発動される
- その発動により、既存の株主は、新規の株式を格安価格で買える権利を与えられる
- その権利は、買収者には与えられない
ポイズンピルによる効果は以下のとおりです。
- 株式の追加発行により、全体に占める買収者の持株比率(シェア)を薄めさせる
- 株式の追加発行により、買収者が購入する株式の価値を減少させる
- 買収者にとって、追加発行された株式を買い取るための追加コストが必要となる
ポイズンプット(Poison puts)
「ポイズンピル」は株式に関するものですが、「ポイズンプット」は社債に関するものです。
敵対的買収を抑止するために以下のようにあらかじめ定められます。
- 敵対的買収が実行され、経営陣が変わったときに発動される
- その発動により、社債の所有者に対して、保有する社債を割増価格で発行企業(買収された会社)に買い取ってもらう権利が与えられる
ポイズンプットの効果は以下のとおりです。
- 買収者に社債を高値で買い取らせることにより、多額の現金を流出させる
- 既存の社債の所有者を買収に伴う社債価値の下落から守る
クラウンジュエル(Crown jewel)
「クラウンジュエル」とは「王冠の宝石」のことです。
敵対的買収を回避するために、企業にとって大切な資産(≒王冠の宝石)を売ることを示唆したり、または実際に売ることです。
買収のターゲットとなった企業にとっては、買収者にその買収をあきらめさせる効果が期待できます。
ロックアップ条項(Lockup)
「ロックアップ」には「固定する」、「束縛する」という意味があります。
ロックアップは、敵対的な買収者が現れたときに、より友好的な買収者に対して、買収のターゲットになった企業の重要な資産や株式を購入できる権利を付与する手段です。
敵対的な買収者にとっては、ターゲット企業の重要な資産や株式が他の買収者に譲渡され、固定化(ロックアップ)されることで、買収が困難なものになります。
最後に
防衛手段の名称はどれも英語から来ていますが、ネーミングはどれもユニークでおもしろいですね。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。