今回は財務分析で使われる財務指標について、5分間で全体像をご理解いただけるようにご説明いたします。
財務分析はなぜ必要?どんなときに使うの?
財務分析は、企業や組織の業績・健全性を数字で比較・検証するために必要です。
比較・検証の対象は、自社であったり、他社であったりします。
自社であれば、前月、前年などと比べることで、前の時期に比べて自社がどのように成長・改善しているのかを検証することができます。
そして、財務指標というものさしを使えば、規模が異なる企業同士でもお互いを比較し合うことができます。
例えば、A社、B社はともにそれぞれ年間利益が1000万円だったとします。
A社の年間売上高は1億円、B社の年間売上高は10億円だったとします。
利益の額は同じでも、売上高に対する利益率というものさしで測った場合、A社は10%(1000万円÷1億円)、B社は1%(1000万円÷10億円)となり、A社のほうが収益性が高いということになります。
このように、事業規模が異なる会社同士であっても、同じものさしで業績や健全性を数字で比較することができます。
他社と比べて自社が優れている点、劣っている点を把握・分析することで、さらなる成長につなげることができます。
財務分析に使われる財務指標
財務分析に使われる財務指標にはどのようなものがあるのか、それぞれのタイプごとにご紹介します。
効率性分析
効率性分析とは、会社の資産をいかに効率よく活用しているかに関する分析です。
売上債権回転率(Accounts Receivable Turnover Ratio)
売上債権回転率は、どれだけ効率よく債権を回収しているかを示す指標です。
以下の2つの数値を用います。
- 信用売上高・・・一定期間(通常は一年)における売上のうち、掛け(≒後払い)で売った売上高
- 売上債権・・・期末時点、あるいは平均の売上債権
売上債権回転率を求める式は次のとおりです。
$$売上債権回転率=\frac{信用売上高}{売上債権}$$
仮に、信用売上高100万円、売上債権を50万とすると、売上債権回転率は2倍になります。
これは、売上債権が回収(≒現金化)されるのに半年かかることになります。
企業としては、売上債権を早く回収できたほうが、費用の支払いや成長のための投資に充当することができるので望ましいです。
逆に、売上債権の回収に時間がかかると、期限のある費用支払いのために追加のコストを掛けて資金を調達しなければならなくなってしまいます。
よって、一般的には、売上債権回転率は高いほうが事業の効率性が高いと言えます。
売上債権回転日数(Days sales outstanding)
売上債権に関する効率性のもう一つの指標が売上債権回転日数です。
企業が売上債権を回収するために平均で何日間を要するのかを示します。
$$売上債権回転日数=\frac{365}{売上債権回転率}$$
回収に要する期間は短いほうが望ましいですので、売上債権回転日数はより少ない日数のほうがベターということになります。
総資産回転率(Asset Turnover Ratio)
総資産回転率は、総資産の効率性に関する指標の一つです。
企業が総資産をいかに上手に使ってより多くの売上を上げているのかを次の式で示します。
$$総資産回転率=\frac{売上高}{総資産}$$
これは、企業の総資産額が、1年に何回、売上高という形で回転したのかを示しています。
この数値が高ければ、総資産が効率的に売上に結びついていると言えます。
例えば、工場の生産を二交代制にすれば、稼働率は単純計算で2倍になり、それだけ売上アップに結びつけることができます。
工場などの固定資産額は、二交代制でもそうでなくても基本的に変わりません。
よって、それまで二交代制を導入していなかった企業は、計算上では、二交代制を導入することでより効率的に総資産を活用して売上をアップすることができます。
固定資産についての解説はこちらをご参照ください。
棚卸資産回転率(Inventory Turnover Ratio)
棚卸資産回転率は、いかに効率よく(スピーディーに)棚卸資産を売上につなげているかを示す指標です。
次の式で表します。
$$棚卸資産回転率=\frac{売上原価}{棚卸資産}$$
棚卸資産回転率が低いと効率性が低いと見なされます。
なぜなら棚卸資産(≒商品)が売れるのに時間がかかっていると示唆されるからです。
さらに、多くの場合、棚卸資産を保管するにもコストがかかります。
よって、一般的には棚卸資産回転率は高いほうが望ましいです。
なお、分母である棚卸資産(≒商品)の数値が大きくなる要因としては、次のようなことが考えられます。
- 商品の人気がなくなり、売れなくなった
- 販売増を見込み、大量に在庫を増やした
企業にとっては、棚卸資産回転率を自社内、あるいは同業他社と比較・分析することで、効率化の改善につなげることが重要です。
収益性分析
収益性分析は、会社の収益性に関する分析です。
収益を上げないと企業は存続できません。
収益性が高いかどうかは自社のみならず、取引先、出資者などの利害関係者にとって最大の関心事の一つです。
したがって、収益性分析で用いられる指標は、有価証券報告書などの資料にもよく見られます。
売上高純利益率(Net Profit Margin)
売上高純利益率は、売上高に対する純利益の割合を率(%)で示すものです。
式は次のとおりです。
$$売上高純利益率=\frac{純利益}{売上高}$$
「売上高」および「(当期)純利益」についてはこちらをご参照ください。
売上高純利益率が高ければ、それだけ収益性の高い事業を行っていることになります。
売上高純利益率が高く、収益性の高い事業を行っていれば、少ない売上でも利益を確保することができます。
逆に、売上高純利益率が低い企業は、純利益を確保するためには、その率が高い企業に比べて、より多くの売上を上げる必要があります。
なお、売上高純利益率を上げるための方法の一つとして、売上単価を上げるという方法があります。
しかしながら、実際のビジネスにおいては、「売上単価を上げれば売上高純利益率が上がる」という単純な結果には必ずしもならない場合があります。
なぜなら、価格を吊り上げることで、購入を見合わせたり、他社から購入したりする顧客がいるかもしれないからです。
よって、売上高純利益率の要因・改善については、他の要素も合わせて考える必要があります。
総資産利益率(Return on Assets, ROA)
総資産利益率(ROA)は、いかに上手に会社の資産を使って収益を上げているかを示す指標です。
この率が高ければ高いほど、会社のすべての資産(総資産)を有効に使って利益を生み出していると言えます。
式は次のとおりです。
$$総資産利益率(ROA)=\frac{純利益}{総資産}$$
総資産についてはこちらをご参照ください。
なお、総資産利益率(ROA)を計算するためには、損益計算書から「(当期)純利益」を、貸借対照表から「総資産」を確認します。
自己資本利益率(Return on Equity, ROE)
自己資本利益率(ROE)とは、会社の資産のうち、自己資本(≒株主資本、純資産)に着目し、いかに自己資本から高い利益を生み出しているのかを測定する指標です。
式は次のとおりです。
$$自己資本利益率(ROE)=\frac{純利益}{自己資本}$$
自己資本(純資産)についてはこちらをご参照ください。
自己資本利益率(ROE)は株主にとって最重要の指標と言えます。
なぜなら、企業の所有者である株主にとっては、自分が投下した資本(≒株式)がいかに高い利益を生み出すかに関心があるからです。
よって、多くの企業が自己資本利益率(ROE)を重視した経営を行っています。
デュポン・アイデンティティー (DuPont Identity)(デュポン公式、デュポンシステム)
デュポン・アイデンティティー(デュポン公式、デュポンシステムなどとも呼ばれます)は、「総資産利益率(ROA)」と「自己資本利益率(ROE)」とを、それぞれの構成要素に分解する分析手法のことです。
米国の化学会社であるデュポン社によって考案されたのでこの名前がつけられています。
総資産利益率(ROA)の分解
総資産利益率(ROA)は次の式のように分解できます。
$$総資産利益率(ROA)=売上高純利益率×総資産回転率$$
これをさらに展開すると次のようになります。
$$総資産利益率(ROA)=\frac{純利益}{売上高}×\frac{売上高}{総資産}$$
売上高純利益率の分母である「売上高」と総資産回転率の分子である「売上高」が相殺されますので、次のとおりとなります。
$$総資産利益率(ROA)=\frac{純利益}{【売上高】}×\frac{【売上高】}{総資産} = \frac{純利益}{総資産}$$
結局は総資産利益率(ROA)の算出式である「純利益÷総資産」になることがお分かりいただけると思います。
デュポン・アイデンティティーを使って総資産利益率(ROA)を分解することは、何が原因で今の総資産利益率(ROA)に至っているのかを突き止めることに役立ちます。
例えば、A社とB社とで、同じ総資産利益率(ROA)であっても、その要因はそれぞれ異なる場合があります。
- A社は、高い売上高純利益率を達成することで、高い総資産利益率(ROA)を保っている
- B社は、高い総資産回転率を達成することで、高い総資産利益率(ROA)を保っている
自己資本利益率(ROE)の分解
デュポン・アイデンティティーは、どちらかといえば自己資本利益率(ROE)の分解でよく知られています。
まず、自己資本利益率(ROE)は以下の2つに分解することができます。
- 総資産利益率(ROA)
- 財務レバレッジ比率(Equity Multiplier)
財務レバレッジ比率は、総資産を自己資本(純資産)で割った比率のことです。
この率が高いほど、総資産に占める自己資本の割合が低いことになります。
別の言い方をすれば、この率が高いほど、総資産に占める負債(他人資本)の割合が高いことになります。
レバレッジとは「てこ」のことです。少ない自己資本だけでは積極的かつ機動的な投資活動ができず、他社に遅れを取ることになりかねません。
自社の信用を生かして積極的に負債(他人資本)を借り入れてタイムリーに投資を行い、事業を拡大することも時には求められます。
借入金を活用することで、「てこ」のように自分の資金力を高められ、自己資本だけの場合に比べて何倍もの事業投資を行うことができます。
このように、いかに負債を「てこ」として活かしているかを示す指標が「財務レバレッジ比率」です。
話を自己資本利益率(ROE)の分解に戻します。
自己資本利益率(ROE)と、先程の2つの構成要素の関係は次のとおりです。
$$自己資本利益率(ROE)=総資産利益率(ROA)×財務レバレッジ比率$$
総資産利益率(ROA)は、「売上高純利益率×総資産回転率」に分解できること、そして「財務レバレッジ比率」は、「総資産÷自己資本」であることをご説明いたしました。
これらのことから、上の式はさらに次のとおりに展開できます。
$$自己資本利益率(ROE)=\frac{純利益}{売上高}×\frac{売上高}{総資産}×\frac{総資産}{自己資本}$$
なお、この式における分母・分子の「売上高」および「総資産」はそれぞれ相殺されます。
よって、以下の通り、結局は自己資本利益率(ROE)の算出式である「純利益÷自己資本」になることがお分かりいただけると思います。
$$自己資本利益率(ROE)=\frac{純利益}{【売上高】}×\frac{【売上高】}{《総資産》}×\frac{《総資産》}{自己資本} = \frac{純利益}{自己資本}$$
つまり、総資産利益率(ROA)を高めるための分析としては、デュポン・アイデンティティーを活用し、次の3つの構成要素ごとに分解して原因を探ることが有効です。
- 売上高純利益率(純利益÷売上高)・・・経費を削減して利益の高い商売をすることで改善する
- 総資産回転率(売上高÷総資産)・・・会社の資産をうまく活用してより多くの売上を上げることで改善する
- 財務レバレッジ(総資産÷自己資本)・・・上手に負債を活用することで改善する
流動性分析
流動性分析とは、企業の短期借入金の返済能力に関する分析です。
いくら資産があってもそれがすぐに換金できるものでなければ事業の資金繰りに困ってしまいます。
流動性が高いほど、企業の短期借入金の返済能力が高いと言えます。
運転資本(Working Capital)
運転資本とは、流動資産から流動負債を差し引いた金額のことです。
$$運転資本 = 流動資産 − 流動負債$$
流動資産とは、現金およびその他の資産のうち、通常の事業のサイクル(通常は1年以内)の中で現金へ換金される予定の資産のことです。
この計算における流動資産では、以下の資産が対象となります。
- 現金
- 有価証券:一時的な投資で容易に換金できるものに限られます。
- 売掛債権:顧客や外部業者などから一定の期日までに支払いを受けられる権利のこと。
- 棚卸資産:顧客に売ることができる状態の商品のこと。製造業であれば、原材料、完成品も含む。
流動負債とは、1年以内に支払わなければならない債務のことです。次のようなものがあります。
- 買掛金
- 短期借入金
- 1年内に返済予定の長期借入金
運転資本がプラスであれば、たとえ流動負債の返済に必要な現金が手元になくとも、すぐに有価証券を現金化したり、棚卸資産(≒製品、商品)を売って現金化することで支払いに充当することができます。
流動比率(Current Ratio)
先程ご説明の運転資本は、率(%)ではなく、金額で表示されますので、規模の異なる会社同士の比較には不向きです。
流動比率は、企業の短期借入金の返済能力を示す指標です。流動比率を用いれば、規模の異なる会社同士であっても、率(%)でお互いの流動性を比較することができます。
式は次のとおりです。
$$流動比率 = \frac{流動資産}{流動負債}$$
一般に、この比率が高いほど企業の短期借入金の返済能力が高いと言えます。
当座比率(Acid-Test Ratio, Quick Ratio)
流動比率の分子である流動資産には、他の流動資産に比べて流動性の低い(すぐに換金しにくい)棚卸資産が含まれています。
棚卸資産を分子から取り除くことより、企業の短期借入金の返済能力をより保守的に測るのが当座比率です。
式は次のとおりです。
$$当座比率 = \frac{現金+有価証券+売掛債権}{流動負債}$$
流動比率同様、一般に、この比率が高いほど企業の短期借入金の返済能力が高いと言えます。
レバレッジ分析
先程も触れましたが、財務指標におけるレバレッジとは負債(≒借入金)の有効活用のことです。
企業の信用力を武器に多額の現金を借り入れることで事業を拡大することを「てこ」にたとえています。
負債を活用した積極投資により事業展開のスピードを早められることはレバレッジの最大の魅力ですが、いいことばかりではありません。
負債には返済義務がともなうからです。
負債が多いと将来の財務を圧迫する要因となり、万一返済できないようなことがあると、それは企業の「死」を意味することもあります。
したがって、レバレッジは高ければ高いほどよいということではなく、その企業にとっての最適なバランスを保つ戦略が重要となります。
その指標となるのがレバレッジ分析で用いられる指標です。
負債比率(Debt to Equity Ratio)
負債比率(負債資本倍率ともいう)は、自己資本に対する他人資本(負債)の割合を示したものです。
式は次のとおりです。
$$負債比率 = \frac{固定負債}{自己資本}$$
この式の通り、通常は分子には流動負債は含めず、固定負債だけを使います。
これにより、長期の負債が、どのくらい返済義務のない自己資本でまかなえているのかをを示すことができます。(固定負債についてはこちらをご参照ください)
なお、固定負債の代わりに、流動負債と固定負債を合わせた負債の総額を分子とする計算方法もあります。
負債総資産比率(Debt to Assets Ratio)
負債総資産比率(総負債比率、負債対総資産比率などともいう)は、総資産に占める総負債の割合を示す指標です。
先程の負債比率では、分子は固定負債に限られていましたが、この指標では、流動負債を含めた、すべての負債が分子となります。
式は次のとおりです。
$$負債総資産比率 = \frac{流動負債+固定負債}{総資産}$$
負債総資産比率の利点は、企業がどの割合で負債を調達しているのかが分かる点です。
もしこの比率が50%を下回れば、総資産の大半(50%超)は自己資本でまかなえていることになります。
反対に、この比率が50%を超えていれば、総資産の大半(50%超)を他者からの借入金でカバーしていることになります。
多額の負債は健全なビジネス運営にネガティブな影響を与えかねません。
どの比率であればベストなのかは、業界やそれぞれの企業によって異なります。
したがって、この指標を意識し、それぞれの企業での最適な資本構成(負債と純資産のバランス)を保つことが重要です。
いかがでしたでしょうか。
理解を深めることができましたでしょうか。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
さらに深く学習されたい方におすすめの本
さらに深く学習されたい方にはこちらの本がおすすめです。
あわせて読みたい
コメント