今回は、「DICE method(ダイスメソッド)」と呼ばれる損害保険の支払対象の確認方法についてご説明いたします。
DICE method(ダイスメソッド)について
アメリカで「DICE method(ダイスメソッド)」として知られる、損害保険の支払対象の確認方法についてご説明いたします。
「DICE method(ダイスメソッド)」の「DICE」は次の頭文字からできています。
- D ・・・Declarations
- I・・・Insuring Agreement
- C・・・Conditions
- E・・・Exclusions
この順番に沿って損害保険の支払対象かどうかを確認します。
Declarations (保険証券に記載の固有の情報)
「Declarations」は、保険証券に記載の固有の情報に関するものです。
まずは、発生した事故がこの「Declarations」の内容を満たしているかを確認します。「Declarations」には次のような情報が含まれます。
- 証券番号
- 契約者
- 被保険者(保険契約によって利益を受ける者)
- 引受保険会社
- 保険の対象となるものを特定する情報(自動車の登録番号など)
- 保険の対象となるもの(建物など)の所在地
- 保険期間
例えば、保険証券に「保険期間 20☓1年4月1日から20☓2年3月31日」までと記載されていたとしたら、その期間を超過した「20☓2年5月1日」に発生した事故については保険金の支払対象にはなりません。
同様に、保険証券に「自動車A」が保険の対象となるものとして記載されているのであれば、「自動車B」に生じた損害は保険金の支払対象にはなりません。
Insuring Agreement (保険証券に記載の支払条件)
「Insuring Agreement」は、保険証券に記載の支払条件に関するものです。
二番目のステップは、発生した事故が「Insuring Agreement」に記載の内容に含まれているのかを確認することです。
なお、保険証券は通常1枚の紙面に表示されます。したがって、「Insuring Agreement」は細かい支払条件を示しているものというよりかは支払条件の概要を示しているものになります。
「Insuring Agreement」に該当する支払条件には次のようなものがあります。
- 補償範囲(オール・リスク条件か特定危険担保条件か)
- 補償される項目(車両保険、対人賠償保険、対物車両保険、人身傷害補償保険など)
- その他の特約について
「オール・リスク条件」と「特定危険担保条件」について補足します。
「オール・リスク条件」とは補償条件のひとつで「すべての偶然な事故に起因する損害に対して保険金を支払う」と定めるものです。「特定危険担保条件」に比べて補償範囲は広くなるのが通常です。
「オール・リスク条件」であればどのような事故でも損害保険金の支払の対象となるというわけではありません。保険金を支払わない場合についてまとめた「免責規定」もありますので、その制約を受けることになります。(免責規定については後述します)
「(支払わない場合を除いて)すべての危険(all risks)に起因する損害に対して保険金を支払う」ので「オール・リスク条件」と言います。
なお、この「オール・リスク条件」という表現はしばしば誤解を招きます。「オール・リスク条件なのだからどんな事故でも保険金が支払われる」と思われてしまうこともあるからです。
海外では、同じ形式であっても「オール・リスク条件」ではなく「包括的補償(comprehensive)」と表記している保険会社もあります。
もう一つの「特定危険担保条件」とは、支払の対象となる事故の種類を特定して表記する補償条件です。
例は以下のとおりです。
- 火災
- 落雷
- 破裂・爆発
- 風災・水彩、雹(ひょう)災・雪災
例えば、「特定危険担保条件」として上記の支払条件が記載されている場合、損害の原因が「火災」であれば保険金の支払対象になります。
逆に、上記の支払条件において、実際の損害の原因が「盗難」であれば保険金の支払対象になりません。
Conditions (約款に記載の支払条件)
「Conditions」は約款(やっかん)に記載の支払条件に関するものです。
発生した事故が「Conditions」の条件を満たしているかどうかを確認することが三番目のステップです。
約款とは、保険金を支払う場合、支払わない場合や契約者・被保険者および保険会社の義務についてまとめられた冊子のことです。数十ページに及ぶものもありますので、先ほどの「Insuring Agreement」(保険証券に記載の支払条件に関するもの)に比べて細かい内容になります。
約款に記載される「Conditions」には次のようなものがあります。
被保険者の義務に関するもの
- 事故通知
- 保険料支払
- 事故時の被害軽減
- 損害立証書類の提出
- 内容に変更が生じた場合の保険会社への連絡
被保険者がこれらの義務を怠った場合、保険会社は保険金支払の責任を免れることがあります。
保険会社の義務に関するもの
- 保険金の支払
- 被保険者の防御・弁護
Exclusions (約款に記載の免責規定)
「Exclusions」は約款に記載の免責規定に関するものです。
発生した事故が「Exclusions」に記載する免責規定に該当していないことを確認するのが四番目(最後)のステップです。
「免責規定」とは、保険会社に損害保険金の支払の責任がない場合についてまとめたものです。
免責規定には次のようなものがあります。
- 反社会的なもの、犯罪・法令違反を助長しかねないもの(故意、飲酒運転、無免許運転、犯罪行為など)
- 高額の損害が生じる可能性があるもの(原子力関連、地震・津波など)
- 偶然性な事故とはいえないもの(自然の消耗、自然の劣化、さび、腐敗、など)
- 他の保険種目との重複を避けるためのもの
この四つのステップの確認がすべてOKであれば、保険会社の立場からは損害保険金を支払う義務があり、被保険者の立場からは損害保険金を受け取る権利があるということになります。
なお、保険証券、約款に決まったフォームはなく、保険会社ごとに異なります。
記載される用語についても同様です。例えば、読みやすさ、分かりやすさの観点から「免責規定」ではなく「保険金を支払わない場合」と表現する保険会社もあります。
今回のご説明で用いた用語が必ずしもどの保険会社の保険証券、約款についてあてはまるものではないことにつきご了承ください。
参考:用語解説(「有責」・「無責」・「免責」について)
保険金支払の対象となるかどうかを保険会社からの観点で次のように言うことがあります。
- 有責(ゆうせき)・・・保険会社にとって損害保険金の支払の責任がある
- 無責(むせき)・・・保険会社にとって損害保険金の支払の責任がない
また、保険契約の適用条件のうち、特に保険金を支払わないことについて定められたものを「免責(めんせき)」と言い、免責についてまとめて書かれたものを「免責規定」と言います。
「無責」と「免責」は使い分けが難しいかもしれません。例は以下のとおりです。
「無責」の例
保険契約の支払条件に「この保険契約は原因となる事故が火災の場合のみ支払う」と書かれている場合
→「台風」によって生じた損害は、支払条件に該当しない(原因となる事故が火災ではない)ので「無責」となる。
「免責」の例
保険契約の免責規定に「飲酒運転によって生じた損害については保険金を支払わない」と書かれている場合
→「飲酒運転」による損害は、上記の免責規定に該当するので「免責」となる。
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まとめ
損害保険金の支払対象の確認方法について(DICE method ダイスメソッド)
- DICE method(ダイスメソッド)について
- Declarations (保険証券に記載の固有の情報)
- Insuring Agreement (保険証券に記載の支払条件)
- Conditions (約款に記載の支払条件)
- Exclusions (約款に記載の免責規定)
- 参考:用語解説(「有責」・「無責」・「免責」について)
損害保険金を受け取るような事故はない方がいいと思いますが、ぜひ参考にしてください。
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