今回は、リスクファイナンシングの5つの機能についてご説明いたします。
リスクファイナンシングとは
リスクファイナンシングは、「損害や事故によって必要となる資金を調達する」ことです。
リスクファイナンシングの手法には大きく「移転」と「保有」の2つがあります。
「移転」とは、主に保険契約を保険会社と結ぶことによって、万一事故があった場合に損害の埋め合わせ(補償)の責任を保険会社に「移転」させる手法のことです。
自動車保険や火災保険をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。
一方、「保有」とは、損害保険や生命保険などを使わずに、万一事故が起こった際に主に自己資金を取り崩して資金を調達する手法のことです。
「保有」も立派なリスクファイナンシングの手法の一つです。
リスクファイナンシングの5つの機能について
それでは、リスクファイナンシングの5つの機能について見ていきましょう。
損害を補償する
リスクファイナンシングには、損害補償の機能があります。
損害が発生すると個人や組織はその損害を埋め合わせるための資金が必要になります。損害によって通常の生活や業務の中断を余儀なくされた場合、その資金は特に重要です。
例えば、家が台風で飛ばされてしまった場合は、買い替えや住み替えのための資金が必要になります。また、社有車が事故で全損となってしまった場合は、新たに車を買うためのお金がいります。
なお、損害を補償する目的は、その損害を受けたものの修理や代替品の購入だけとは限りません。社会的な信用を守るためにも重要です。
例えば、個人や組織が誤って第三者の身体や財物を傷つけてしまった場合に、加害者となった個人や組織は、損害を補償することで、社会的信用へのダメージを軽減することができます。
リスクコストを管理する
リスクコストとは、リスクマネジメントを行ううえで必要となるコストのことです。
リスクコストは3つあります。
- 運営コスト
- リスクコントロールのコスト
- リスクファイナンシングのコスト
なお、これらのコストは、リスクファイナンシングの手法が「移転」か「保有」のどちらであってもかかります。
リスクファイナンシングを適切に行うことは、リスクコストの管理に寄与します。なぜなら、移転と保有のバランスをどう保つかなどによってリスクコスト全体に影響を及ぼすからです。
運営コスト
運営コストとは、リスク管理の維持・運営にかかるコストのことです。例えば、総務部やリスク管理部がその企業のリスク管理を担う場合は、それら総務部やリスク管理部の維持・運営費用が運営コストに該当します。
リスク管理業務を外注(アウトソース)する場合は、その外注費用が運営コストになります。
リスクコントロールのコスト
リスクコントロールとは、「事故の発生頻度や損害の高額化を抑えるための取り組み」のことです。「リスクコントロールのコスト」とは、そのためのコストのことです。
なお、リスクコントロールには以下の6つの手法があります。
- 回避
- 事故防止
- 事故削減
- 分離
- 複製
- 分散
「リスクコントロール」の詳細についてこちら(⇓)の記事をご参照ください。
リスクファイナンシングのコスト
リスクファイナンシングのコストとは、リスクファイナンシングの手法である「移転」と「保有」にかかるコストのことです。
「移転」にかかるコストは、主に生命保険や損害保険の契約にかかるコスト(保険料)のことです。また、「保有」にかかるコストは、万一の事故に備えて貯めるコストのこと、あるいは実際に事故が発生したため主に自己資金で損害を補償したコストのことです。
リスクコストは最小限にすることがよいとは限らない
これら3つのリスクコスト(運営コスト・リスクコントロールのコスト・リスクファイナンシングのコスト)を管理するということは、必ずしもこれらのコストを最小限にすることではありません。
これらのコストはリスクを管理するうえで必要なコストです。したがって、コストに見合った、あるいはコスト以上の効果があることが重要です。
リスクコストを削ったせいで、万一の事故のときに十分な効果を発揮することができなかったということが生じないようにしましょう。
キャッシュフローの変動を管理する
キャッシュフローとは
キャッシュフローとは現金の流れのことです。キャッシュフローを説明するうえでは、いつサービスを提供したのかと、いつそのサービスの対価(お金)を得られるのかの例がよく用いられます。
例えば、個人事業主の方が、せっかくある月(例、1月)にサービスを提供しても、その報酬を得られるのが3ヶ月後(例、4月)となってしまってはその間の資金繰りに困ってしまうかもしれません。
上記の例の場合、会計上はサービスを提供した1月の時点で売上と認識されますが、キャッシュを得られるのは3ヶ月後(4月)ですので、売上とキャッシュを得るタイミングに差が生じます。したがって、ビジネスにおいてはキャッシュフローの管理がとても重要です。
リスクマネジメントを行ううえでも、キャッシュの発生とその流れにも着目することは重要です。なぜなら、損害が発生した場合に、それを補うのはキャッシュ(現金)だからです。
リスクファイナンシングとキャッシュフローの変動について
リスクファイナンシングには、キャッシュフローの変動を管理するという機能もあります。
万一事故によって損害が生じたり、事業中断によりキャッシュフローが途絶えたりしたとしても、損害保険から保険金を受け取ることができれば、キャッシュフローの変動を抑えることができます。
なお、どのレベルのキャッシュフローの変動が個人や組織にとって耐え難いものになるのかは、個人や組織によって異なります。
現金の蓄えがある、比較的裕福な家庭であれば、キャッシュフローの急激な減少を許容できるかもしれません。また、個人が毎月固定の給料ベースで収入を得ているのか、あるいは歩合制なのかでも状況は異なります。
組織(企業など)も同様で、事業規模や資金力によってキャッシュフロー変動の許容レベルは異なります。さらには、企業のリスク許容度(大きなリスクをとって高い収益を得るか、あるいはより安全策を取るか)によってもキャッシュフロー変動の許容レベルは異なります。
適切な流動性を管理する
リスクファイナンシングは、適切な流動性を管理することにも寄与します。
流動性とは現金化のしやすさのことです。事故で損害が発生し、現金が必要なときに株や債券を売却すれば比較的早く現金を手に入れることができます。
これが土地や機械設備だったらどうでしょうか。すぐに現金化はできないケースがほとんどだと思います。
特に「保有」すると決めたリスクに対しては適切な流動性を確保することが重要です。なお、この流動性の確保には内部調達と外部調達があります。
内部調達とは、個人あるいは組織の内部の資産で流動性確保の原資を調達することです。また、外部調達とは、株式や債券の発行や借り入れ(借金)によって流動性確保の原資を調達することです。
この流動性は高ければ高いほうが良いということではありません。特に、組織(企業)にとっては、流動性確保のための資産を他の事業や投資に回せなくなることで収益拡大のチャンスが制限されることになりかねません。
したがって、個人や組織にとって必要な流動性のレベルを把握したうえで、最適な流動性を確保することが重要です。
法規制を遵守する
個人や組織が活動を行ううえで、リスクファイナンシングを実行することが法規制を遵守することになる場合もあります。
なお、ここでいうリスクファイナンシングとは主に移転(損害保険契約)のことです。
例は以下のとおりです。
- 自動車を所有する際の自賠責保険への加入
- 公共事業に関する履行保証保険への加入
- 自転車事故に関する個人賠償責任保険への加入
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まとめ
リスクファイナンシングの5つの機能について
- 損害を補償する
- リスクコストを管理する
- キャッシュフローの変動を管理する
- 適切な流動性を管理する
- 法規制を遵守する
リスクマネジメント全体についてもっと理解を深めたい方はぜひこちらもご覧ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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