今回は、リスクの4分類についてご説明いたします。
リスクの4分類について
リスクをいろいろな切り口で分類するとしたらどのようなものがあるでしょうか。
リスクの分類には様々なものがありますが、ここではもっとも一般的な分類をご紹介します。
- 純粋なリスクと投機的なリスク
- 分散可能なリスクと分散できないリスク
- 主観的なリスクと客観的なリスク
- 4つのリスク
ひとつずつ見ていきましょう。
純粋なリスクと投機的なリスク
純粋なリスクとは、損失が生じるか生じないかのリスクのことです。
よって、純粋なリスクは「損をする」か「しない」かの二択です。
あなたが新型のスマートフォンを買ったとします。
運悪く、買ったその日に手元から落としてしまい、パネルが割れてしまいました。その結果、パネル交換の修理代が必要になり、金銭的な損失が生じてしまいました。
あるいは、新型のスマートフォンを大事に使っていたので、落としたり壊したりするようなことはなかったとします。
その場合はパネルの状態に変化はないので、金銭的な損失も生じません。
これが、純粋なリスクです。
それに対して投機的なリスクとは、損失が生じるか生じないかに加え、利得が生じることもあるリスクのことです。
よって、投機的なリスクは「損をする」、「利益を得る」、「どちらでもない」の三択です。
株式投資や事業への投資は「投機的なリスク」の好例と言えます。
うまくいけば莫大な利益が得られることもあるでしょうし、反対に巨額の損失が生じることもあります。
またはリスクを取って投資したにもかかわらず、利益も損失も生じなかったというケースもありえます。
また、「投機的なリスク」を「ビジネスリスク」と言うこともあります。
なお、「純粋なリスク」と「投機的なリスク」のうち、損害保険や生命保険で通常対象としているのは「純粋なリスク」の方です。
分散可能なリスクと分散できないリスク
分散可能なリスクとは、分散することによって影響をコントロールすることができるリスクのことです。
分散によりリスクの影響を少なくしその度合いを予測可能なものとすることができます。
例えば、生命保険会社は、生命保険に加入しているAさんがいつ亡くなるのかを予測することはできません。
しかしながら、多くの人の生命保険を引き受け、リスクを分散させることによって、性別、年齢層、病歴などの過去の膨大なデータから、死亡保険金を支払う確率を予見可能なものとしています。
自動車保険も同様です。損害保険会社は、自動車保険に加入しているBさんが、いつ、どのような自動車事故を起こすかを予測することはできません。
しかしながら、損害保険会社は、何百万件もの自動車保険契約を引き受けることでリスクを分散させ、それら契約をひとつのかたまりとしてとらえることで、全体として年間におよそ何件、いくらくらいの保険金を支払うのかの予測をすることができます。
その予測保険金に運営経費と利益とを合算して事業化しているのです。
なお、このように「より多くのデータがあれば、それだけ統計的な平均値・確率に近づく」ことを「大数の法則」といいます。
サイコロを振って「1」が出る確率は10回振った程度ではばらつきが出てくるかもしれませんが、何千、何万回と振れば「6分の1」に限りなく近づくことでよく例えられます。
分散できないリスクとは、分散できないために社会全体に同時に影響を与えるリスクのことです。
地震・津波などの大災害、パンデミック、戦争、テロ、景気の悪化などがその例です。
これらのリスクは、分散させることが難しく、ひとたび起こると巨額な損害が生じかねません。
また、いつ起こるかの予見も困難なため、一般に保険の商品化が難しいリスクです。
主観的なリスクと客観的なリスク
主観的なリスクとは、個人や組織の判断によって見積もられるリスクのことです。
以下のような要因でリスクは主観的なものとなります。
- 「自分には事故は起こらないだろう」という思い込み・過小評価
- 大災害の被害の映像による過剰反応、根拠のないうわさに基づく先入観
- リスクへの無関心
客観的なリスクとは、事実や数値によって計測可能なものとすることができるリスクのことです。
過去の事実、統計、トレンドなどのデータなどをもとに数値化するのが通常ですが、経験豊富な保険引受人(underwriter)の判断も客観的なリスクの判定に用いることができます。
4つのリスク
少しややこしいですが「リスクの4分類」の最後の一つが「4つのリスク」です。
あるリスクを次の4つのリスクのどれかに振り分けて分類します。
- ハザード・リスク
- 遂行リスク
- 財務リスク
- 戦略リスク
ハザード・リスク
ハザード・リスクとは、所有財産、賠償責任に関わるもので、主に損害保険で対象となるリスクのことです。
「ハザード」も「リスク」も日本語ではどちらも「危険」と訳されることがあります。
「ハザード」は「損失の可能性を高める状態」あるいは「危険な状態・障害物」のことです。
「ハザード」の例
- 通行人が転倒しかねない、床の水たまり
- 落石があるかもしれない山道
- 氾濫の可能性のある川の近くの住宅
「ハザード」は「ハザードマップ」として日本語にもなっています。
「ハザードマップ」は、津波や河川の氾濫、土砂災害、高潮などがその地域に及ぼす「危険な状態」を可視化した地図のことです。
遂行リスク
遂行リスクとは、ハザード・リスクには該当しないリスクで、人による行動、業務遂行、管理上の過失によって生じうるリスクのことです。
遂行リスクの例
- 人材流出リスク
- 自社生産ラインの欠陥による生産中止のリスク
- 社内のシステムトラブルでメールが使えないリスク
などです。
なお、ハザード・リスクと遂行リスクは、純粋なリスク(損失が生じるか生じないかのリスク)に分類されます。
財務リスク
財務リスクとは、市場(マーケット)、信用状況、流動性の変化にともなうリスクのことです。
財務リスクの例
- 所有株式がマーケットの悪化により価値が下落した。
- 資金の貸し出し先が倒産したため、貸し倒れの損失が生じた。
- 不動産の売却先が見つからないため、予定していた期日までに資金化ができなくなった。
戦略リスク
戦略リスクとは、社会、政治、他社競合、顧客の需要などの環境変化にともなうリスクのことです。
戦略リスクの例
- 進出国での政策変更により、その国でのビジネスができなくなった。
- 自国の環境基準に関する法律が変わったため、今のままでは法律改正後は自社製品を販売できないことになった。
- 顧客ニーズの上昇に合わせて生産拡大を行ったが、他社との競合も激しく、かえって減収となった。
なお、財務リスクと戦略リスクは、投機的なリスク(損失が生じるか生じないかに加え、利得が生じることもあるリスク)に分類されます。
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まとめ
リスクの4分類について(リスクマネジメントの基本)
- 純粋なリスクと投機的なリスク
- 分散可能なリスクと分散できないリスク
- 主観的なリスクと客観的なリスク
- 4つのリスク(ハザード・リスク、遂行リスク、財務リスク、戦略リスク)
身の回りのリスクがどれに分類されるのか、考えてみると面白かもしれません。
リスクマネジメント全体についてもっと理解を深めたい方はぜひこちらもご覧ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。