今回は、保有と移転のバランスに影響を与える6つの内部要因についてご説明いたします。
(はじめに)リスクファイナンシングにおける保有と移転とは
リスクファイナンシングの手法には「保有」と「移転」の二つがあります。
「保有」は、万一事故が起こった際に主に自己資金を取り崩して資金を調達する手法です。
「移転」は、主に保険契約を保険会社と結ぶことによって、万一事故があった場合に、損害の埋め合わせ(補償)の責任を第三者(保険会社)に移転させる手法です。
詳細は以下の記事をご参照ください。
保有と移転のバランスに影響を与える6つの内部要因について
仮に損害が起こる確率や予想される損害額が同じであっても、個人や組織がそのリスクに対して保有・移転のどちらで備えるのかは、それぞれの内部要因によって異なります。
ここでは、保有と移転のバランスに影響を与える6つの内部要因についてご紹介いたします。
リスクの許容度があるか
リスクを取って積極的に攻めるタイプなのか、あるいはとにかく安全運転で手堅くいくタイプなのかによって、個人や組織が取る行動は変わってきます。
前者であれば、ある程度のリスク(≒損失が生じる可能性)を覚悟で行動しますし、後者であれば、できるだけ損失を避けるため、ハイリスクな行動を避けることになります。
そのような行動の変化は、保有か移転かの選択にも関わってきます。
同じリスクであっても、ガンガン攻めるタイプであれば、リスクを保有し、大きなリターンを狙う傾向があります。
逆に、慎重なタイプであれば、万一の損失を避けるため、リスクをあらかじめ移転する傾向があります。
金銭的な余裕があるか
同じリスクであっても、金銭的な余裕があるかどうかで、保有か移転かの選択が異なってきます。
例えば、30年に1回の割合で1億円の損害額が発生するリスクがあるとします。
金銭的な余裕がある超大企業であれば、わざわざ移転のための費用をかけずとも、そのリスクに対して保有で備えることを選択することが有効といえます。
同じリスクを一般の個人が抱えている場合はどうでしょうか。
万一、本当に1億円の損害が発生した場合は生活が破綻してしまいます。このような状況を避けるためにはリスクを移転するのが現実的な選択肢です。
リスクを熟知しているか
自分の本業など、熟知している業務に関するリスクについては、保有が有効な選択肢になります。
なぜなら、損害が起こる確率や予想される損害額を他の誰よりも知っているからです。仮に移転(≒保険契約)と保有を組み合わせる場合であっても、自分が熟知している業務におけるリスクを高い割合で保有することにより、移転にかけるコストを安くすることができます。
反対に、新規に参入するビジネスなど、その業務に関するリスクに不透明さがあるときには、移転の比率を高めるのが有効と言えます。
リスクの分散ができるか
リスクの分散ができているのであれば、一部のリスクを保有することでコストを抑えることができます。
例えば、多角的に事業を展開している企業は、10の事業のうち、1つの事業で大きく失敗をしても、残りの9の事業がその失敗を埋め合わせてくれるかもしれません。
リスクの分散も同様です。リスクが点在していることで、それらが一斉に損失を被る可能性が低いのであれば、それら全部を移転(≒保険契約)させることなく、一部のみ保有し、その個人や組織の許容を超えるリスクのみを移転すれば良いことになります。
逆に、コアビジネスが一つしかない、あるいは資産が一つの場所に集中しているといったケースではリスク分散が効いていません。
このような場合は、一つの事故が個人の生活や事業の存続に大きな影響を及ぼしかねませんので移転で備えるのがベターです。
事故防止・事故削減の対策があるか
同じリスクであっても、そのリスクを抑制する体制が整っているかどうかによって、保有するか移転するかの判断が異なる場合があります。
例えば、自動車運転に事故はつきものですが、従業員の安全運転指導や、表彰制度の取り入れなどにより、企業としての自動車事故のリスクを減らすことができます。
そのような企業は、自動車保険の契約はするものの、補償の一部を保有(自己負担額=免責金額の設定)することで、移転のコストを抑えることができます。
保有に対する体制が整っているか
例えば、数多くの車両を抱える大手の運送会社やタクシー会社の中には、あたかも自社が保険会社であるかのような体制を整えているところもあります。これは「自家保険」と言われます。
自家保険は、車両の保有台数が多くなればなるほど、損害発生の頻度・被害額は、全体の平均に近づくことを利用したものです。
この確率論・統計学における基本定理を「大数の法則」といい、よくサイコロで1が出る確率に例えられます。
10回、20回程度サイコロを振っただけでは1が出る確率はばらばらですが、何百、何千回と振っていくとその確率は限りなく6分の1に近づきます。
大数の法則を利用できるほどの車両を保有する企業であれば、予想される損害に対して、損害の補償や示談交渉などの手続きを自らが行うことで移転(≒自動車保険料)にかかる経費を節約することができます。
このように、保有に対する体制が整っていれば、当然リスクを保有するのが有力な選択肢になります。
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まとめ
保有と移転のバランスに影響を与える6つの内部要因【リスクマネジメントの基礎】
保有と移転のバランスに影響を与える6つの内部要因について
- リスクの許容度があるか
- 金銭的な余裕があるか
- リスクを熟知しているか
- リスクの分散ができるか
- 事故防止・事故削減の対策があるか
- 保有に対する体制が整っているか
皆さんの業務やプライベートで応用できると思いますのでぜひ役立ててみてください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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