保険に入らないのも立派なリスクマネジメント
リスクに自己資金で備えることを「保有」という
保険に加入せずに自己資金でリスクに備えるのも立派なリスクマネジメントです。
そのことを表す名前もちゃんとあります。
保険に加入せずに自己資金でリスクに備えることを「保有」と言います。
反対に、万一事故があった場合の損害の埋め合わせ(補償)の責任を第三者(保険会社)に移転させる手法のことを「移転」と言います。
「保有」と「移転」のメリットとデメリット
「保有」と「移転」どちらもメリットとデメリットがあります。ここでは2つずつご紹介します。
保有 | 移転 | |
メリット | お金がかからない | お金がかかる |
デメリット | 高額な損害への備えには不適 | 高額な損害への備えに適している |
保有は、発生した損害を自己資金でまかなう方法です。
もし事故が全く起こらなければ、コストは低く抑えられます。
一方、移転は、事故の有無に関わらず、主に保険料という形で一定のコストの拠出を伴います。
よって、一般的に移転は保有よりも高コストとなります。
保有は、発生した損害を自己資金でまかなう方法ですので、自己の資産を超えるような高額な損害への備えとしては不向きです。
移転においては、高額な損害が発生した場合、契約した第三者(保険会社)に責任を転嫁することができます。
したがいまして、移転は高額な損害への備えに向いていると言えます。詳細については以下(⇓)をご覧ください。
「保有」で備えるのが適しているリスク
リスクに応じた保有と移転の使い分けは以下のように考えることができます。
発生頻度:低 | 発生頻度:高 | |
被害額:小 | 保有 | 保有 |
被害額:大 | 移転 | 回避(可能であれば) 保有(最後の手段) |
上記の図の通り、「被害額:小・発生頻度:低」のリスクであれば、保有が適しています。
被害額も大したことがなく、発生頻度も低いのであれば、わざわざ移転のためにコストを費やす必要はありません。
また、「被害額:小・発生頻度:高」のリスクも保有が適しています。
例えば、洗い物をしてお皿を割ってしまうなどの損害はある程度決まった頻度で発生することが見込まれますので、およその損害額の見当がつきます。
そのようなリスクは保有で計画的に準備することができます。
なお、このようなリスクを移転で備える場合、見込みの損害額にさらに保険会社の事業費や利益が上乗せされますので、コストが高くなってしまいます。
リスクは全体でとらえる
すべてのリスクが一度に襲いかかってくる可能性はゼロに近くなる
リスクは一つ一つのではなく、全体でとらえましょう。
なぜなら、すべてのリスクが事故や損害という形で顕在化するという、最悪のケースが発生する可能性は、対象となるリスクが多くなるほどゼロに近くなるからです。
事例で説明します。
1年間のうち、ケガで入院する確率が50%とした場合
例えば、1年間にケガで入院をする確率が50%とした場合、事故が起こる(入院する)確率と起こらない(入院しない)確率を図で表すと以下のようになります。
起こる (50%) | 起こらない (50%) |
ケガで入院する確率が50%、病気で入院する確率が50%の場合
上記の例(1年間にケガで入院をする確率が50%)に、「1年間に病気で入院する確率が50%」である場合を加えます。
1年間のうち、「ケガあるいは病気のどちらかで入院する(どちらか起こる)確率」、「ケガと病気の両方で入院する(両方とも起こる)確率」・「両方とも入院しない(両方とも起こらない)確率」は以下の図のとおりになります。
両方とも起こる (50%×50%=25%) | ケガだけ起こる (50%×50%=25%) |
病気だけ起こる (50%×50%=25%) | 両方とも起こらない (50%×50%=25%) |
上図(赤字)のように、両方とも起こる確率は25%に減ります。
一方で、ケガの入院だけで見た場合の「起こらない」確率は50%でしたが、ケガ・病気の両方ともに「起こらない」確率も25%に減っています(青字)。
これは、「病気の入院」のリスクが追加されたことで、発生する確率が増したことによるものです。
ケガで入院する確率が20%、病気で入院する確率が20%の場合
実際には、1年間のうち、病気やケガで入院をする確率は実際にはもっと低いでしょう。
仮に、病気あるいはケガで入院をする確率を20%とすると以下の通りになります。
両方とも起こる (20%×20%=4%) | ケガだけ起こる (80%×20%=16%) |
病気だけ起こる (80%×20%=16%) | 両方とも起こらない (80%×80%=64%) |
上図のように、両方とも起こる確率は4%に減ります(赤字)。
また、両方とも起こらない確率は80%ではなく、64%に減少します(青字)。
「起こらない確率が減る」ということは、逆を言えば「起こる確率が増える」ということです。
両方とも起こらない確率が減った要因は、ケガあるいは病気のリスクが加わったことによるものです。
さらに別のリスクが加わった場合(火災リスク・発生確率20%)
さらに、前述の例(ケガあるいは病気で入院する確率20%)において、別のリスク(例、火災・発生確率20%)が加わると、以下の計算式の通り、3つのリスク全てが発生する確率は、0.8%になります。
計算式=20%(ケガの発生確率)×20%(病気の発生確率)×20%(火災の発生確率)=0.8%
また、ケガ・病気・火災とも起こらない確率は、以下の計算式の通り、51.2%になります。
計算式=80%(ケガの発生確率)×80%(病気の発生確率)×80%(火災の発生確率)=51.2%
上記は3つのリスクの例ですが、リスクの数がさらに増えれば、それぞれが同時期に発生する確率はさらにゼロに近づくことになります。
また、リスクの数がさらに増えれば、まったく事故や損害が起こらない確率も減ることになります。
事例から言えること
これらの事例から以下のことが言えます。
- 複数のリスクが同時に発生する確率は、リスクの数に応じてゼロに近づく
- リスクが増えれば、それらのリスクが事故や損害となって発生する確率は高くなる(逆を言えば、事故や損害がまったく起こらない確率は低くなる)
リスクが増えるごとにすべてのリスクが一度に襲いかかる確率はゼロに近づきます。
そのような、確率的にほぼ起こり得ないことに対して保険で備えることは非効率と言えます。
実際、すべてのリスクに対して保険に加入していたらいくらお金があっても足りません。
しかしながら、保険に加入しないでもいいと言っているわけではありません。
事例で説明しましたとおり、リスクが増えれば事故や損害がまったく発生しないというケースも確率的に低くなるからです。
したがいまして、リスクにどう備えるのかをリスク単体で考えるのではなく、考えられるリスクをすべて洗い出した上で、優先順位をつけてリスク対策を行うことが重要です。
同時に起こらないリスクもある
リスクの組み合わせにおいては両者が同時に起こらないものもあります。
例えば、私たちの生死に関するリスクとして、「早期の死亡のリスク」と「老後資金のリスク」があります。
「早期の死亡のリスク」とは、死の訪れが予期せず早いものとなり、残された家族には大きな金銭的な負担となってのしかかってくるリスクのことです。
また、「老後資金のリスク」とは、寿命が延びることで、必要な資金が枯渇してしまうリスクのことです。
「早期の死亡のリスク」と「老後資金のリスク」が両方起こることはありえません。
「早期の死亡のリスク」が現実のものとなってしまったら「老後資金のリスク」は起こりえないからです。
今や長寿社会ですので「老後資金のリスク」の方が高まっているかもしれません。
そうであれば、「早期の死亡のリスク」の備えは最小限とし、「老後資金のリスク」の資金計画に比重を置くのが合理的です。
万一、「早期の死亡のリスク」が現実のものとなってしまった場合でも、老後資金のために積み立てた資金を充当することができます。
「保有」なら自己資金を有効活用できる
「保有」なら、自己資金を有効活用することができます。
例えば、健康のリスクが気になる方は、自己資金を医療保険の保険料に費やすのではなく、ジョギングやフィットネスクラブなどの健康への投資に使うことができます。
あるいは、もし自己資金の資産運用によって資産を増やすことができれば、他のリスクによる損失を埋め合わせることもできます。
このように、「移転(保険契約)」だけにかたよらないリスク対策が大事です。
保険を見直してみましょう
これまでご説明の通り、必ずしも「リスクへの備え」=「保険加入」ではなく、「移転」(保険で備える)と「保有」(自己資金での備える)のバランスが重要です。
ぜひこの機会に保険を見直してみましょう。
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個人賠償責任保険はクレジットカードでの加入がおすすめです。
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まとめ
保険に入らないのも立派なリスクマネジメント
- リスクに自己資金で備えることを「保有」という
- 「保有」と「移転」のメリットとデメリット
- 「保有」で備えるのが適しているリスク
リスクは全体でとらえる
- すべてのリスクが一度に襲いかかってくる可能性はゼロに近くなる
- 事例から言えること
同時に起こらないリスクもある
「保有」なら自己資金を有効活用できる
いかがでしたでしょうか。リスクマネジメント全体に関心のある方はこちらのまとめ記事もご覧ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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