今回は、リスク管理にありがちな3つの誤った考え方と正しい目的についてご説明いたします。
リスク管理にありがちな3つの誤った考え方
リスク管理は大事とは分かっていても、何を目的に取り組んだら良いのか迷う方もいらっしゃるかもしれません。
リスク管理を行うためにはまずその目的をしっかりと定めることが重要です。以下の3つの考え方は、リスク管理の目的に関する誤ったものです。
保険に加入すれば大丈夫
保険の加入は有効なリスク管理の手法の1つです。
(なお、保険の加入によってリスクを第三者に転嫁する手法のことを「移転」と言います。また、「移転」とは反対に、自己資金でリスク(≒損害)に備える手法を「保有」と言います)
しかしながら、「保険に加入すれば大丈夫」という考えはすべての場合に当てはまるとは言えません。それは以下の理由によるものです。
- すべてのリスクに対応する保険があるわけではない
- 「移転(保険)」には一定のコスト(保険料)がかかる。よって、リスクによっては「保有(自己資金)」も組み合わせるべき
- 保険の加入は、事故発生後の資金準備に備えるものである。事故が発生しないための取り組みも重要である。
したがいまして、保険加入は、リスク管理の一つの手段に過ぎず、これだけ行えば十分というものではありません。
長年事故が起こっていないから大丈夫
長年事故が起こっていないから大丈夫という考え方は誤りですし、とても危険です。
事故が起こっていないのは、たまたまかもしれません。いつ事故が起こってもおかしくない危険な状態かもしれません。
「リスクが低いこと」と「事故が起こっていないこと」はまったくの別物です。
今にも吹き飛ばされそうなボロ屋と頑丈な鉄筋コンクリートのビルディングでは、たとえどちらも長年火災や台風被害を受けていないとしても、どちらが強風や火災に耐えられるかは明らかです。
したがって、リスク管理に関して、実際に事故が発生したかどうかという観点も重要ですが、リスクの度合い(高いか低いか)で捉えることも同様に重要です。
リスクはとにかく避けるべき
リスクは避けられたほうが望ましいですが、かといって「リスクはとにかく避けるべき」という考えは誤っています。なぜなら、リスクを避けてばかりでは組織や個人の活動が成り立たないからです。
例えば、民間企業は損失リスク(≒事業の失敗)を覚悟で営利を追求します。リスクがまったく無い事業は存在しませんので、リスクを取らずに事業は成り立ちません。
個人(家庭や日常生活)も同様です。リスクを恐れてばかりでは、まともな日常生活を送ることができません。
リスクがいつかは実際の事故(損害)として顕在化するかもしれないとの認識のうえ、リスクとうまく付き合いながら、組織や個人としての活動を行っていくことが重要です。
リスク管理の正しい目的
それでは、リスクを管理する目的にはどのようなものがあるのでしょうか。先程も少し触れましたが、以下のように整理ができます。
リスクを許容範囲内に収めること
まずはリスクを許容範囲に収めることです。
これは、リスクを全くゼロにすることとは違います。リスクを認識しつつ、そのリスクをうまくコントロールすることで許容範囲内に収め、万一事故が起こったとしても、経済的な損失を想定範囲内に収めることが、リスク管理の目的の一つです。
リスク管理に関する式(「固有リスク」ー「リスク対策」=「残余リスク」)
なお、リスクを許容範囲に収めることは、以下の式で示すことができます。
「固有リスク」ー「リスク対策」=「残余リスク」
詳しく説明します。
固有リスク
「固有リスク」とは、「リスク対策をなんら講じない場合のリスク」のことです。
例えば、以下のような状態です。
- 耐震性能が不十分な家に住んでいるが何の対策もしていない
- ワックスをかけたばかりの床が滑りやすくなっているため、ケガをするリスクが高い
- 自動車保険に加入していないため、死亡事故などを起こした場合、経済的に困窮するリスクが高い
リスク対策
「リスク対策」とは、固有リスクを軽減するための取り組みです。リスク対策は大きく次の2つに大別されます。
- リスクコントロール・・・損害や事故を防ぐ・削減する対策
- リスクファイナンシング・・・損害や事故によって必要となる資金を調達するための対策
詳しくは以下(⇓)の記事をご覧ください。
先程の固有リスクの例と照らし合わせた場合のリスク対策は以下の通りです。
- 耐震補強工事を行い(リスクコントロール)、火災保険にも加入した(リスクファイナンシング)
- ワックスをかけたばかりの床に人が立ち入らないように柵で囲った(リスクコントロール)
- 安全運転の講習を受講し(リスクコントロール)、自動車保険にも加入した(リスクファイナンシング)
残余リスク
リスク対策を講じたあとに残るリスクが「残余リスク」です。
リスク対策に完全なものはありませんし、そもそもリスクを完全に根絶するのは事実上不可能です。
したがって、残余リスクを限りなくゼロに近づけることよりも、残余リスクを許容範囲内に収めることのほうが現実的なリスク管理となります。
なお、「残余リスクを許容範囲内に収めること」は、「リスクを許容範囲内に収めること」の別の言い方といえます。
リスク管理のためのコストを計画通りに収めること
リスク管理にはもう一つ目的があります。それはリスク管理のためのコストを計画通りに収めることです。
いくらリスクを許容範囲内に抑制できたとしても、大量の資金や時間をつぎ込んだため、組織や個人の存亡に影響を及ぼすようでは逆効果です。
例えば、工場の部品倉庫でねじ一本が紛失するのを防ぐために、大量の警備員を雇ったり、セキュリティーを何重にも強化したりするのは非現実的です。費用対効果の観点での検証も大事です。
リスクを許容範囲に収め、かつそのコストも適正なものであってこそ、リスクの管理ができている状態と言えます。
よって、「リスク管理のためのコストを計画通りに収めること」も、リスク管理の目的の一つです。
なお、リスク管理に関して次の3つのコストがあることを理解しましょう。それら3つのコストの総和を最小限にすることがリスク管理の重要なベンチマークになります。
実際に発生した事故によるコスト
一つ目が「実際に発生した事故によるコスト」です。たった一つの事故を引き金に、様々なコスト要因に発展する場合があります。
例えば、工場建物に火災が発生した場合、以下のようなコストが生じかねません。
- 建物自体の修理費用
- 生産停止に伴う休業損害
- 代替生産のための追加支出(人件費、輸送費)
- メディア、近隣住民への対応のためのコスト
リスク管理を正しく実行できていれば、事故を未然にを防ぐことができます。あるいはたとえ事故が起こってしまっても被害を最小限に食い止めることができます。
リスク対策に費やされるコスト
二つ目が「リスク対策に費やされるコスト」です。リスク対策には以下の費用を伴うことがあります。
- 損害保険料
- リスク管理の専任部署の設置、専任担当者の割当に伴うコスト
- 事故防止、事故削減のための具体的な支出(スプリンクラー設備、耐震工事など)
これらのリスク対策の中には必要不可欠なものもありますが、想定される被害よりも多くのコストをかけてしまっては本末転倒となる場合があります。
残余リスクのコスト
最後が「残余リスクのコスト」です。「残余リスク」ではなく、「残余リスクのコスト」ですので、金銭で換算されるものとなります。(「残余リスク」については上記の説明をご参照ください。リスク対策を講じたあとに残るリスクのことです)
なお、「実際に発生した事故によるコスト」や「リスクマネジメントに費やされるコスト」に比べて、「残余リスクのコスト」はコスト(金銭)への換算が難しいです。
なぜなら、「実際に発生した事故によるコスト」や「リスクマネジメントに費やされるコスト」が現実のものとなったコストであるのに対して、「残余リスクのコスト」はまだコストとして顕在化していないリスクに関するものだからです。
そのため、「残余リスクのコスト」の目標設定や成果検証も難しいものとなりますが、コスト(金銭)として管理を行うことで、他のコストと合算した検証が可能となります。
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まとめ
リスク管理にありがちな3つの誤った考え方と正しい目的
リスク管理にありがちな3つの誤った考え方
- 保険に加入すれば大丈夫
- 長年事故が起こっていないから大丈夫
- リスクはとにかく避けるべき
リスク管理の正しい目的
- リスクを許容範囲内に収めること
- リスク管理のためのコストを計画通りに収めること
リスクマネジメント全体についてもっと理解を深めたい方はぜひこちらもご覧ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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