今回は、個人・家庭・日常生活におけるリスクマネジメントのテクニックと活用事例についてご説明いたします。
個人・家庭・日常生活のリスクマネジメントとは
リスクマネジメントの考え方は企業も個人も同じ
「リスクマネジメント」と聞くと、主に企業や組織を対象とするものと思われる方がいらっしゃるかもしれません。
確かに「リスクマネジメント(危機管理)」は、企業や組織を取り巻く、さまざまなリスクへの管理手法を意味する言葉として広く使われています。
しかしながら「リスクマネジメント」の考え方は企業も個人も同じです。
よって、個人・家庭・日常生活においてもリスクマネジメントのテクニックは活用できます。
保険に加入するだけがリスクマネジメントではない
「リスクマネジメント」=「保険加入」ではありません。
「リスク」をマネージ(manage=管理)するのが「リスクマネジメント」です。
したがいまして「リスクをどのように管理するか」という考え方がとても重要です。
「保険加入」はリスクマネジメントの手法の一つに過ぎません。
この記事では、個人・家庭・日常生活で役立つリスクマネジメントのテクニックをご紹介いたします。
個人・家庭・日常生活におけるリスクマネジメントのテクニック
リスクマネジメントの目的を理解する
リスクマネジメントの目的はリスクを管理することです。
言い換えれば「リスクと上手に付き合うこと」です。
いつ襲ってくるか分からないリスクになんの備えもなく生活を送るのはあまりにも危険です。
逆に、すべてのリスクを避けるために家に閉じこもってばかりいるわけにもいきません。
個人・家庭・日常生活のリスクにはどのようなものがあるのかを正しく認識し、それらに上手に対処することが重要です。
うまく対処できれば、リスクを許容範囲内に抑えることができます。
リスクと上手に付き合うことで、リスクを現実の損害に発展させないようにすること、あるいはリスクが現実の損害へ発展したとしても被害を最小限にすることができます。
これによりリスクに負けない、豊かな人生を送ることができます。
リスクマネジメントのステップの全体像を理解する
リスクマネジメントのステップは、いわゆるPDCAサイクルに似ています。
このステップは個人・家庭・日常生活でのリスクマネジメントにも応用できます。
リスクマネジメントのステップは6つあります。
- リスクの特定
- リスクの分析
- リスク対策の洗い出し
- リスク対策の選択
- リスク対策の実行
- リスク対策の見直し
詳しくはこちら(⇓)の記事をご参照ください。
個人・家庭・日常生活にはどのようなリスクがあるのかを把握する
個人・家庭・日常生活にはどのようなリスクがあるのかを知ることも大事です。
個人・家庭・日常生活の主なリスクは以下の通りです。
財物のリスク
財物は大きく分けて2つあります。
- 不動産・・・土地・建物など
- 動産・・・土地・建物以外の財物(家財道具、電気製品、クルマ、貴金属など)
個人として所有のこれらの財物が、火災や台風、地震、盗難などの原因で損害を被るリスクがあります。
賠償責任のリスク
日常生活では次のような賠償責任のリスクがあります。
- 車を運転中に、対人・対物事故を起こしたことへの賠償責任
- 借りているアパートで火災事故を起こしてしまったことへの賠償責任
- 買い物中に商品をうっかり壊してしまったことへの賠償責任
- 自転車で走行中に歩行者をケガさせていしまったことへの賠償責任
相手に重度のケガを負わせてしまった場合は、億単位の損害賠償を請求されることがあります。
老後資金のリスク
日本人の健康寿命が伸びる中、年金受給が先送りとなったり、年金受給額が減らされたりすることが懸念されています。
そのため、ゆとりある生活を送るために、公的年金だけに頼らずに、十分な老後資金を確保する必要があります。
さらに、老後の医療費や介護が必要になった場合の備えも必要です。
早期の死亡のリスク
人間には必ず「死」がやってきます。
その訪れが予期せず早いものである場合には、残された家族には大きな金銭的な負担となってのしかかってくることがあります。
健康・障害のリスク
個人・家庭・日常生活においては、健康・障害のリスクについても注意を払う必要があります。
ケガや病気による一時的な健康障害であれば大事に至らないことが多いですが、もしケガや病気で長期的に就業不能となった場合は、収入が途絶え、かつ長期間の医療費がかかるというダブルパンチになってしまいます。
失業のリスク
失業には、自発的なものとそうでないものがあります。
キャリアアップのため、あるいは高収入を求めて今の仕事を辞めるのであれば、次の仕事までの失業期間は自発的なものと言えます。
会社都合やその他の理由によって本人の意思に関わらず失業せざるを得ない場合もあります。
そのような予期せぬ失業は、その期間が長ければ長いほど本人や扶養家族に経済面で負の影響が及びます。
会社の倒産による失業はやむを得ないですが、会社のリストラによる失業(早期退職制度の実施など)は、スキルアップや事前の転職活動(情報収集)を行うことで、その被害を回避あるいは軽減できる可能性が高まります。
リスク対策の手法を知る(リスクコントロール)
リスク対策のうち、損害の発生頻度や被害額を抑えるための取り組みを「リスクコントロール」と言います。
何も対策を講じなければリスクが高い状態のものを、「リスクコントロール」によってその状態を低くすることができます。
その手法には大きく6つあります。
回避
回避とは損害や事故の可能性のある活動を完全にやめることです。
例
- 飛行機事故が怖いので、飛行機以外の交通手段を選択する
- 火災事故を避けるためマイホームの購入をあきらめる
- 盗難されるのを恐れてマイカーを購入しないことにする
回避により事故の発生を完全に防ぐことができますが、現実的には、以下の理由で回避を選択するのは難しい場合が多いです。
- マイホーム、マイカーは、家庭や個人においての夢であったり、生活に欠かせないものであったりするので、手放すわけにはいかない
- 回避によって、ある事故は防ぐことができても、別の手段を選択することで新たなリスクが生じる。(例、飛行機事故を避けて自動車で移動した場合、自動車事故に遭うリスクが生じる)
事故防止
「事故防止」は、損害や事故が発生しないようにすることです。
例
- 高齢者が階段から転ばないように手すりをつける
- 滑りやすい床にカーペットを敷く
- マイホームに防犯装置を取り付け、不審者が侵入できないようにする
事故削減
「事故削減」とは起きてしまった損害や事故の程度を軽減させることです。
例は以下のとおりです。
- 火災報知器(火災発生をすぐに知らせる)
- スプリンクラー設備(火災発生後の消火機能)
- 自動車のエアバッグ(衝突のショックを和らげる)
- 監視カメラ(侵入者の特定を容易にする)
(参考)事故防止と事故削減の違い
事故防止と事故削減の違いは以下の通りです。
- 事故防止・・・事故を未然に防ぐ
- 事故削減・・・起こってしまった事故の被害を軽減させる
分離
分離とは、損害・事故の一極集中を避けるために、分けて管理を行うことです。
- 預金を複数の銀行口座に振り分けて保管する
- 貴重品は自宅と銀行の金庫にそれぞれ分けて保管する
分離を行うことで、万一の事故の被害額を抑えることができます。
複製
複製とは、バックアップやコピーを取っておくことです。
複製があれば、複製元がダメージを受けたとしても、複製をもとに被害を回復することができます。
すべてのものを複製できるわけではありません。以下のようなものが複製の対象になります。
- 情報
- 鍵
- 重要書類
分散
分散は、損害・事故を受ける対象のあるものを、複数の商品、市場、地域などに拡散させることです。
個人の運用資金を、国内外の株式・不動産・債券などに振り分けて投資することが「分散」にあたります。
リスク対策の手法を知る(リスクファイナンシング)
リスク対策のうち、損害や事故によって必要となる資金を調達することを「リスクファイナンシング」と言います。
リスクファイナンシングの手法には大きく「移転」と「保有」の2つがあります。
移転
「移転」とは、主に保険契約を保険会社と結ぶことによって、万一事故があった場合に損害の埋め合わせ(補償)の責任を保険会社に「移転」させる手法のことです。
自動車保険や火災保険をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。
「移転」の主な特徴
- 費用がかかる(生命保険料、損害保険料)
- 高額な損害に備えることができる
高額な損害のリスクを保険会社に移転することで、万一高額事故が発生した場合、保険料の何十倍、何百倍もの資金の支払いの責任を保険会社に転嫁することができます。
一方で、事故の有無にかかわらず、補償を得るためのコスト(生命保険料、損害保険料)が必要になります。
「移転」で備えるのが適しているリスク
「移転」で備えるのが適しているリスクは次のとおりです。
- 発生する可能性は低いが、万一起こると高額な損害となるもの
火災や地震、台風などの自然災害や、自動車の高額賠償事故(相手の死亡、後遺障害)などがこれに該当します。
保有
一方、「保有」とは、損害保険や生命保険などを使わずに、万一事故が起こった際に自己資金を取り崩して資金を調達する手法のことです。
「保有」の主な特徴
- 低コスト
- 高額損害への補償は不向き
保有は、発生した損害を自己資金でまかなう方法です。
もし事故が全く起こらなければ、コストは低く抑えられます。
その一方、保有は、発生した損害を自己資金でまかなう方法ですので、自己の資産を超えるような高額な損害への備えとしては不向きです。
「保有」で備えるのが適しているリスク
- 発生する可能性が低く、被害額も小さいもの
- 発生する可能性は高いが、被害額は小さいもの
発生頻度が低く、被害額も小さいのであれば、保有が適しています。
わざわざ移転(保険)にコストを費やす必要はありません。
発生する可能性は高いが、被害額は小さいものも基本的には保有が向いています。
被害額が小さいので計画的に損害を見積もることで自己資金で備えることができます。
なお、このようなリスクを移転(保険)で備える場合、見込みの損害額にさらに保険会社の事業費や利益が上乗せされますので、コストが高くなってしまいます。
個人・家庭・日常生活におけるリスクマネジメントの活用事例
個人・家庭・日常生活で役立つリスクマネジメントの活用事例を説明します。
リスクマネジメントの目的を意識する
はじめに説明しましたが、リスクマネジメントの目的はリスクを管理することです。
言い換えれば「リスクと上手に付き合うこと」です。
以下のようなことではありませんので注意しましょう。
- すべてのリスクを避ける行動を取る
- すべてのリスクに対して生命保険や損害保険に加入して備える
あくまで目的は、リスクと上手に付き合い、リスクを許容範囲内に抑えることであることを意識しましょう。
この意識(自分の軸)があれば、自分の判断基準でリスクマネジメントを行うことができます。
リスクマネジメントについての自分の判断基準がないと、いつの間にか生命保険の外交員に言われるがままの生命保険契約に加入していることになりかねません。
リスクコントロールとリスクファイナンシングのバランスを考慮する
リスクコントロールとリスクファイナンシングのバランスを考慮することも重要です。
以下の例はバランスが取れていない例です。
- 生命保険には加入しているが、健康的ではない生活を送っている
- 自動車保険には加入しているが、危険な運転を繰り返してばかりいる
- 新築のマンションだから災害には遭わないと判断し、火災保険をかけない
たとえ上記の例のような不十分なリスクマネジメントをしたとしても、結果として事故は起こらなかった、ということはありえます。
しかしながらこれらの行動は、道路を逆走したり、目をつぶったまま道路を横断するのと同じで危険がとても高いです。
リスクが高い行動を選択した場合は、リスクが現実の損害として顕在化する可能性も高まります。
リスクコントロールとリスクファイナンシングのバランスを取り、リスクを許容範囲内に収めることを意識しましょう。
すべてのリスクに移転(保険契約)で備えようとしない
リスクに備えようとする気持ちが強くなり、すべてのリスクに移転(保険契約)で備えようとするのも行き過ぎです。
先ほど説明した、移転と保有の特徴、それぞれに適したリスクがあることを思い出しましょう。
めったに起こらないが、万一起こったら高額損害へ発展するリスクのみ、移転(保険)で備える
例は以下のとおりです。
- 世帯主(一家の大黒柱)の早期の死亡に備える、残された家族のための生命保険
- マイホームの火災保険、地震保険
- 高額(億単位)の賠償責任に備えるための自動車保険
保険金をもらえたらちょっと助かる、うれしいという程度のリスクは「保有」で備える
例は以下のとおりです。
- 短期の医療補償
- 数万円程度の自動車の修理費用(車両保険の「免責金額」を活用しましょう)
- その他見舞金費用の特約(数万〜数十万円のもの)
これらの費用は仮に保険金を受け取ることができないとしても生活が困窮することはありません。
また、これらの補償のための保険料を長年支払い続けた場合、累計の支払保険料は、受け取る保険金よりも多いかもしれません。
例えば、月々1,000円の保険料を払い続けた場合の累計額は以下の通りとなります。
- 1年間で12,000円
- 10年間で120,000円
- 30年間で360,000円
もし30年間の間に1回だけ30万円の保険金受け取りの機会があるとしても、保有(自己資金)で備えたほうが経済的です。
保険を見直してみましょう
ご説明の通り、少額の補償は保有(自己資金)で備えたほうがお得なケースが多いです。
もしこれまで保険代理店の勧められるままに保険契約をされているのであれば、専用サイトを見たり、保険のプロに相談したりして保険を見直してみましょう。
自動車保険の見直しはこちらです。
火災保険の見直しはこちらです。
生命保険の見直しはこちらです。
個人賠償責任保険についてはこちらをご覧ください。
外部リンクへ移りますが、同じ管理人のブログですのでご安心ください。
リスクマネジメントには個人差がある
これまでご説明した、リスクコントロールとリスクファイナンシングのバランスや、あるリスクに対して移転か保有かどちらで備えるべきかについて、明確な基準はありません。
個人の保有資産の状況や、リスクに対しての考え方には個人差があるからです。
例えば、金銭的な余裕のある方は多くのリスクを保有できるでしょうし、心理的な安心を得るためとにかくあらゆるリスクに備えたいという方は他の方と違った選択をするかもしれません。
今回ご覧いただいた内容を参考に、自分に合ったリスクマネジメントを実践される参考になればと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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